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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)157号 判決

一 原告請求原因一から三記載の、特許庁における手続経過、本願実用新案の要旨および本件審決の内容に関する事実は当事者間に争いのないところである。

二 右争いのない事実ならびにその成立に争いのない甲第一号証、同第五号証および同第七号証の各記載によれば、本願実用新案の技術内容の要旨とするところは、「図面(別紙(一)記載のとおり)に示すように、電源1に連なるトランス2の二次側を、可飽和リアクトル3の捲線の各端子の一方に接続し、他端をそれぞれ主整流器10の入力端へ結線し、この主整流器10の出力端11および12に連結したクリツプ13および接地14の回路には、これと並列に電磁開閉器の励磁線輪16と固定抵抗15とからなるループ17を挿入し、かつ、前記可飽和リアクトル3の直流捲線24、25および26に補助整流器20の出力端を接続し、その入力端にはリアクトルの捲線7および8を分岐連結し、この線端7の回路中には、適宜な可変抵抗器21を挿入するとともに、線端8に連なる入力回路19には、電磁開閉器の励磁線輪16に吸引されて開閉する接片18とリアクタンス27との並列素子を直列に挿入した熔接機における自動電流調整装置の構造」というにあることが認められ、その目的、作用および効果は、次のように解することができる。

可飽和リアクトルの直流励磁電流を電弧端電圧により変化させるようにした従来の熔接機においては、無負荷の場合は、高度の励磁電流が流れ、過負荷の場合は励磁電流が減少して電圧は降下する。

これに対し本願実用新案の可飽和リアクトルは従来のものと全く反対の作用をする。すなわち、無負荷の時(作業開始前で熔接電流がまだ流れていない時)は、リアクトルの励磁電流が減少して交流抵抗が増大し、始動に際し急激な過電流が流れないようにし、作業が進行するに従つて(熔接電流が流れ始めてから)励磁電流が増大して交流抵抗を減じ熔接電流の制限を緩める。従つて電弧の始動(作業の開始)に際しては、高抵抗が働いて始動時における過電流を防止して目的物に孔をあけたりするような不都合を絶無とし、かつ均質な熔接を可能ならしめる、というにあるものである。

三 本件審決が、本願実用新案の拒絶理由として引用した刊行物である実用新案出願公告昭三一―一一六三〇号公報(昭和三十一年七月十九日公告)の技術内容についてみるに、その成立に争いのない甲第二号証の記載によると、次のように認めることができる。

(一) 〔引例考案の構成〕 別紙(二)記載の図面に示すように、主変圧器8の二次側に可飽和チヨークコイル10を挿入して映写用弧燈電流を調整するようにしたセレン整流器において、上記の可飽和チヨークコイル10に主整流体11と別にその励磁用整流器12を設け、その励磁用整流体に直列して遠方操作用端子18、調整抵抗13、電流継電器14を接続し、かつ、この電流継電器14の励磁線輪を主整流器の出力側に直列に接続した映写用セレン整流器の構造、というにある。

(二) 〔引例考案の目的作用および効果〕 映写用アーク燈においては、その始動時に電極を短絡し、のちこれを離間させてアークを継続しながら運転状態に入るが、このために始動時には大きな電流が流れ、かつアークの安定性を欠き、また、アーク燈の反射鏡を破損させるおそれがある。従来のカーボンアークの自動調整装置としてアークカーボン端子から分岐したアーク電圧を整流し、これによつて直流励磁作用を有する可飽和リアクトルのリアクタンスを変化させてカーボンアーク電流の自動調整を図つたものがあるが、この方式によると、無負荷の時は最高の励磁電流がかかつており、またカーボンを接触させた瞬間には可飽和リアクトルの励磁は僅少であるから多大の電圧降下を生じ、カーボンを開くとともに電圧が上昇し、理論上は、運転中自動調整が行なわれるようではあるが、実際運転の場合には、以上のような現象その他微妙な各種の条件が介入して充分その目的に副いえない。

これに対し、引例の考案においては、無負荷の時に電流継電器は切れており、可飽和リアクトルの励磁は行なわれていない。また運転開始の時のみ瞬間的に電圧降下させるとともに、カーボンは直ちに引離すものであり、さらに、運転中は従来のもののように自動的に働かせるものではなく、調整抵抗を手動し、状況に適応した調整を行なうものである。従つて、整流器の無負荷電圧の上昇を抑制し、無負荷時には可飽和リアクトルの励磁が零であるから、インピーダンスは最大となり、セレンの逆流などは僅少となり、交流電流によつて多くの電圧降下を生ずる。そのために安定なアークの継続を行なわせ、従来のアーク燈における欠点を除くことができる。

四 そこで、引例の考案をもつて本願実用新案に対する拒絶理由とした本件審決に違法原因があるかどうかについて判断する。

先ず、原告は、本願の考案が「熔接機」に関し、引例の考案が「映写用セレン整流器」に関するものである旨主張する。

しかし、本願の考案が「熔接機」に関するものであり、引例の考案は「映写用セレン整流器」に関するものであることは、その考案の名称から明らかなところであるが、本願の考案も引例の考案も同じくアーク電流を対象としていることには変りはなく、本願の考案がこれを熱源として熔接用に用い、引例の考案がこれを光源として映写用に用いるの差異があるに止まり、その考案の主旨とするところは、ともに主回路を流れる弧光電流を制御することを目的とするものである点において共通しており、本願の考案がとくに引例の考案と用途を異にしたための格別の特異な構造をとつている点は見当らないし、またそのための格別な作用効果を生じていることも窺われない以上、この点の相違をもつて本件審決の結論に影響を及ぼす違法原因とするには足らない。

原告は熔接機が、映写用アーク燈のような、継続したアーク現象を用いようとするのではなく、必要に応じ短時間の使用の断続ということがある旨主張するところがあるが、引例の考案においても始動時における過電流の制御という課題を技術的に解決したものであつて、この点に関する限り、本願実用新案のそれと何ら変るところはない。

従つて、問題は、熔接機に用いられるかあるいは、映写用アーク燈に用いられるかの点にあるのではなく、その両者の考案の構成に差異があり、そのために作用効果において格別の差異があるとみられるかどうかの点にあるものといわなければならない。

五 そこで本願の考案と引例の考案とを、その構成の点において対比すると、両者を形式的にみるときは、たしかに原告の指摘する通り、本願の考案においては、負荷回路において、主回路に対し、電磁開閉器の励磁線輪16および固定抵抗15とが並列に挿入されていることならびに制御回路において、電磁開閉器の開閉接片18に対し、リアクタンス27が並列に挿入されている点において相違しているということができる。

そこで、この相違点が両者の作用効果の点においてどのように評価されるべきかについて検討する。

本願実用新案においては、電磁開閉器の励磁線輪16が主回路に対し並列に接続されているから、無負荷時(弧光の発生前)には右励磁線輪にかかる電圧は最大となり、開閉接片18を吸引してリアクタンス27が補助整流器20の入力側に有効に働き、その結果補助整流器20の出力は減少して可飽和リアクトル3の励磁を減少させ、そのリアクタンスが増加することは前に認定した本願実用新案の構成および作用からみて明らかである。

これに対し、引例の考案は、主電流によつて作用する電流継電器14(原告はこれを本願実用新案における電磁開閉器と異なる旨主張するが、両者はともに励磁線輪および作動接片とから構成されており、その作用も、回路を開閉するところにあり、実質的には同等とみるべきである。)の励磁線輪が主回路に対し直列に挿入されているから、無負荷のときはこの線輪には電流は流れず、その接点は開いており、補助整流器12の直流出力は阻止されているから、可飽和リアクトルの直流励磁はなく、そのリアクタンスは最大である。

従つて、両者は無負荷時においては可飽和リアクトルのリアクタンスが最大となつて始動時の弧光電流を制御するという作用の点でまつたく一致し、また、負荷が増加する時は、可飽和リアクトルの励磁電流が増加してそのリアクタンスを小さくさせ、弧光電流の制限を緩めるよう働くからこの場合でもその作用は同等である。

結局、本願実用新案の電磁開閉器の励磁線輪が負荷回路に対し並列であり、また引例の考案の電流継電器の励磁線輪が直列であるけれども、この相違点に基づく効果上の差異はまつたく認められず、単に電気結線上、通常用いられる直列か並列かの相違だけの問題に帰するから、実質的にみるときはこの点を取り上げて別異の構成ということはできない。

原告は、本願実用新案の電磁開閉器は主回路に対し並列であるから、無負荷時においても制御回路の電圧は零とならないが、引例の考案の電流継電器は主回路に直列に挿入してあるから零となる、との点を挙げ、両者が作用の点で異なる旨主張するが、引例の考案において、無負荷時に電流継電器14が開いて可飽和リアクトルの直流励磁電流を遮断することは、そのリアクタンスを大きくしようとするためであつて、これは本願実用新案が無負荷時に補助整流器20の入力側にリアクタンス27を挿入してその直流出力を制限することにより可飽和リアクトルのリアクタンスを大きくすることと全く一致する。この場合には、回路電圧の有無は単に、可飽和リアクトル励磁線輪の設計上の問題であるにすぎず、電流制御の作用の本質には直接何らの影響を及ぼす問題ではないのである。

原告はそのほかその請求原因四の(四)の1から5において、本願実用新案の作用効果上、引用例のそれと異なる点を挙げているが、すでに前述したところからも明らかな通り、1から4の点は、いずれも本願実用新案において並列配置の構成がとられていることにともなう当然のもの、5の点は具体的設計に応じ適宜選択しうる範囲を出ないところであつて、これらの作用効果の相違も本件審決と異なる結論を招来するものではない。

六 結局、本願実用新案と引用例とは、前者が熔接機に関するものであり、後者が映写用セレン整流器に関するものであるとはいうものの、その構成上の差異は、設計工作上の微差といえる程度のものにすぎず、この点に旧実用新案法第一条にいう考案ありとはいえないから、結局、本願実用新案は、引用例の記載から当業者が容易に推考できる範囲を出ないものというべく、これと同旨の本件審決には違法の点はない。

よつて、原告の請求は理由がないので、これを棄却する。

〔編註〕 本件に関する別紙は左のとおりである。

別紙(一)

<省略>

別紙(二)

<省略>

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